――SFO・MFO・VCCをどう使い分けるべきか
本稿の要旨
- 2026年、シンガポールのSFO制度は再び転換点を迎えた。 6月にはSFOのライセンス免除制度、8月には13O・13OA・13UのSFO向け要件が見直され、AUM判定や人材配置などがより実務的な仕組みに改められた。
- 一方、Economic Substanceを重視する方向性は変わっていない。 非ファミリーのInvestment Professional、Local Business Spending(LBS)、Capital Deployment Requirement(CDR)などを通じ、シンガポール経済との実質的な結び付きが引き続き求められている。
- SFO・MFO・VCCは競合する制度ではなく、役割が異なる。 SFO/MFOは「誰が資産を管理するか」、VCCは「資産を入れる器」、13O/13Uは「一定の要件を満たすファンドに適用される税制」と整理する必要がある。
- 2026年の資産管理で重要なのは「制度選び」より「ガバナンス設計」である。 資産規模だけでなく、居住地、日本側事業、投資対象、承継方針まで含め、一族に必要な機能を自前で持つのか、MFO等の外部インフラを利用するのかを設計することが重要となる。
- シンガポールの強みは税制単体ではなく、資産管理エコシステムにある。 制度が変化しても、金融・法務・税務・承継・ガバナンスを一体で構築できることが、世界の創業家を引き付ける本質的な競争力となっている。
シンガポールは、世界の創業家・富裕層にとって、アジアを代表する資産管理拠点の一つとなっています。
シンガポール経済開発庁(EDB)によれば、シンガポールに設立されたSingle Family Office(SFO)は2,000を超えています。税制優遇を受けるSFOについても、2020年末の約400から2024年末には2,000超へと急増しました。
注目すべきは、この増加が規制緩和だけによって起きているわけではないことです。
むしろシンガポールでは近年、ファミリーオフィスに対して、投資専門人材、Local Business Spending(LBS)、Capital Deployment Requirement(CDR)などを通じ、シンガポール国内に一定の経済的実体(Economic Substance)を持つことを求めてきました。
さらに2026年には、SFOを取り巻く制度が再び大きく動いています。
2026年6月15日にはSFOのライセンス免除について新たなclass exemption frameworkが施行され、さらに7月31日にはMAS(Monetary Authority of Singapore)がファンド税制優遇制度に関するCircularを公表しました。SFOが管理するファンドについても経済的要件が見直され、新条件は8月1日から適用されています。
したがって、2026年のシンガポールにおけるファミリーオフィス設計は、
「SFOを作ればよい」
あるいは、
「13O・13Uを取ればよい」
という段階から、明確に次のフェーズへ移っています。
重要なのは、一族の資産規模、事業、居住地、投資方針、承継計画に応じて、
SFO(Single Family Office)
MFO(Multi Family Office)
VCC(Variable Capital Company)
をどのように使い分け、あるいは組み合わせるかという「設計」です。
本稿では、2026年8月時点の制度改正を踏まえ、日本の創業家・資産家が押さえておきたい実務上のポイントを整理します。
目次
- まず整理したい「SFO・MFO・VCC・13O/13U」の違い
- 2026年8月改正――SFO向け13O・13OA・13Uはどう変わったのか
- Local Business Spendingも再設計――大規模SFOほど負担は大きい
- Capital Deployment Requirement(CDR)も簡素化
- 2026年6月、SFOのライセンス免除制度も変更
- 単独SFO――「自前の城」を持つ意味
- MFO――「すべてを自前で持たない」という選択
- VCCは「組織」ではなく「器」
- MFO+VCCという組み合わせ
- 日本の創業家が考えるべき「5つの判断基準」
- 2026年改正から見えるシンガポールの政策意図
- 結論――「制度選び」から「ガバナンス設計」へ
