TIGER 21の創業者で、自身のファミリーオフィスも運営するMichael W. Sonnenfeldt氏が書いたファミリーオフィスの運用成果測定に関する面白い記事がありましたので紹介します。
記事の中で、Michael W. Sonnenfeldt氏は、巨額の資産を築く能力と、築いた資産をファミリーオフィスで適切に管理する能力は別のものだと論じています。多くの成功した起業家は現在の資産価値を把握していても、その資産形成の過程で実際にどの程度の収益を得たのか、取ったリスクや支払った手数料に見合う成果だったのかまでは測定していません。ファミリーオフィスを設けた後も、資産残高、資産配分、有名な運用者との関係、限定的な投資機会へのアクセスといった要素が注目され、運用成果そのものの検証が後回しになりやすいというのがここで書かれている問題提起です。
ファミリーオフィスの成果測定(Michael W. Sonnenfeldt氏の記事より)
単年度の運用成績は市場環境によって大きく変動するため、一時点の数字だけでは実力を判断できません。そのうえで、Michael W. Sonnenfeldt氏はファミリーオフィスの投資ポートフォリオは長期的に年率6〜7%程度の収益にとどまることが多いと述べ、年率6%なら1ドルが30年間で約5.74ドルになる一方、米国株式市場の長期的な収益率を約10%と置けば約17.50ドルになると比較しています。多数の職員、投資委員会、コンサルタント、外部運用者、プライベートファンドを利用しながら、結果的に低コストの市場指数を下回ることが多いという事実を、測定によって直視すべきだという主張です。
ただし、富を生み出した事業活動と、その後の資産運用は目的が異なります。起業家は、自らが深く理解し、一定の支配力を持つ事業に資本と労力を集中させ、大きなリスクを引き受けることで富を築きます。これに対して、ファミリーオフィスには通常、分散、リスク管理、資本保全が求められます。彼自身は、42年間の事業活動を通じて年率21.7%で資本を増やしたとしていますが、これは自ら創出・管理した事業への集中から得た成果であり、ファミリーオフィスが目標とすべきポートフォリオ収益率ではないと明確に区別しています。
この違いを踏まえ、彼は、ファミリーオフィスの運用機能が何を達成するために存在するのかを最初に決めるべきだとしています。課題を解決する中心は、新しいシステムを導入することではなく、適切な評価指標を選ぶことです。運用成果を測定しなければ、複雑な運用体制や高い手数料が資産を徐々に毀損していても発見できず、その影響は世代をまたぐ複利によって拡大しかねないと警告しています。
彼が挙げる第1の実務規律は、短期・中期・長期という複数の期間に加え、流動性とリスクの水準別に成果を測ることです。株式、債券、プライベートエクイティ、不動産、現金という通常の資産クラス別分類だけでは不十分であり、別の軸として、①直ちに換金できる資産、②値引きを受け入れれば90〜360日以内に換金できる資産、③事業会社などの非流動的でキャッシュフローを生む資産、④ベンチャー投資、スタートアップ、開発案件など大きな成長を目指す資産、という区分を示しています。二つの分類を重ねて見ることで、通常の運用報告では見えにくい集中や弱点を把握できるというのが彼の主張です。
第2は、起業と投資を異なる技能として認識することです。事業を成功させた起業家は、その事業で競争優位を持っていたとしても、資産売却後に参加する世界の資本市場では、同じ優位性があるとは限りません。したがって、創業時のような高い収益を当然の前提にせず、必要に応じて高度な運用能力を持つ人材を配置し、資産管理に適した目標と評価方法を採用する必要があると述べています。
第3は、投資戦略を議論する前に、ファミリーオフィスの目的と統治方針を決めることです。具体的には、将来世代も資産を一体で保有するのか、それぞれが独立して管理するのか、金融資産と慈善目的の資産をどのような条件でまとめ、または分けるのか、配偶者や相続人をガバナンスにどのように参加させるのかを、家族として検討すべきだとしています。彼は、投資商品の選択以上に、こうした統治と構造に関する判断がファミリーオフィスの成否を左右するとみています。
第4は、本当に重要な事項を継続して測ることです。期間、資産配分、リスク、流動性という複数の軸でリターンを記録すれば、どこに弱点や再現可能な強みがあるかが明らかになり、資産の売却、運営人員、ファミリーオフィスを設けること自体の妥当性についても、より根拠のある判断ができるというのが彼の結論です。
Michael W. Sonnenfeldt氏のメッセージから我々が考えたいこと
年率6〜7%という平均値について、記事では具体的な調査名、対象数、対象期間、手数料・税引き前後の別を示していません。また、著者自身の年率21.7%も本人側の計算として紹介された数値です。しかしながら、目的に応じた評価軸を定め、測定を継続すべきだという問題提起は重要です。
ファミリーオフィスの運用評価で最初に決めるべきなのは、目標収益率ではなく、資産を何のために保有し、いつ、どの程度使う可能性があるのかという運用目的です。生活費や納税、事業への追加出資、相続・贈与、慈善活動など、家族が資金を必要とする時期と目的が曖昧なままでは、運用成果を正しく評価することはできません。
例えば、近い将来に必要となる資金には、収益性よりも元本の安定性と換金のしやすさが求められます。一方、当面使用する予定のない長期資金であれば、短期的な価格変動を受け入れながら、非流動性資産を含む成長機会を検討できます。この二つを一つの収益率だけで評価すると、短期資金には過大なリスクを、長期資金には過度な保守性を求めることになりかねません。
多くの場合、高い利回りを求め過ぎ、結果としてハイリスク商品の組み入れが多くなったり、資産特性の分散が十分に出来ていないため効率的な運用が出来ていないということがあります。
資産全体を少なくとも「いつでも使える資金」「数年以内に使う可能性がある資金」「長期にわたり保有できる資金」といった流動性別に分け、それぞれについて目的、運用期間、許容損失、比較対象を定めることは重要と言えるでしょう。
評価する際も、表面的な収益率だけでなく、手数料・税負担控除後の成果、価格変動や最大損失、資金需要を満たせたか、特定の事業・銘柄・運用者への集中が過大でないかを併せて確認する必要があります。
さらに、ファミリーオフィスの成果は投資収益だけでは測れません。家族が納得できる意思決定の仕組みがあるか、必要な情報が適切な頻度で共有されているか、世代交代後も方針を維持・見直せるか、事務・税務・法務上のリスクが管理されているかも、長期的には同じくらい重要です。
運用目的と流動性区分を家族で合意し、各区分に適した評価基準を文書化する。そのうえで、定期的に実績と前提条件の双方を見直す。この順序を守ることで、相場環境や単年度の収益率に振り回されず、家族固有の目的に沿った運用評価が可能になると考えられます。
参考資料
Michael W. Sonnenfeldt, [“Is a Poorly Performing Family Office Eroding Your Family Fortune? You Won’t Know if You Refuse to Measure Its Returns”](https://www.kiplinger.com/investing/wealth-management/is-your-family-office-losing-money ), *Kiplinger*,
2026年8月21日公開 本稿は一般的な情報提供を目的とするものであり、特定の投資、税務または法務上の助言を行うものではありません。
