富裕層はなぜ「第2の居住地」を持つのか

――バーレーン、ギリシャ、キプロス、マルタ、ポルトガルの投資家向け居住制度を比較

世界の富裕層や企業オーナーの間で、「第2の居住地(Second Residence)」を持つという考え方が広がっている。

背景にあるのは、単なる海外移住への憧れではない。

資産の国際分散、子どもの教育、事業展開、政治・地政学リスクへの備え、そして将来のライフスタイル。家族を取り巻く環境が複雑になるにつれ、「どこに住むか」も資産管理や事業承継と切り離せないテーマになっている。

その選択肢の一つとして各国が整備してきたのが、一定の投資や資産要件を満たした外国人に中長期の居住資格を認める制度である。一般に「ゴールデンビザ(Golden Visa)」と呼ばれることも多い。

ただし、注意したいのは、「ゴールデンビザ」という言葉に世界共通の厳密な法的定義があるわけではないという点だ。

取得できるのが永続的な居住資格なのか、一定期間の滞在許可(Residence Permit)なのか。不動産投資が必要なのか、ファンド投資でもよいのか。最低滞在日数はあるのか。

制度設計は国によって大きく異なる。

本稿では、2026年9月時点の公表情報をもとに、5カ国の制度を比較してみたい。


目次

バーレーン――BHD13万の不動産から「Golden Residency」

中東湾岸地域で注目したい国の一つがバーレーンである。

バーレーンでは、世界の専門人材、退職者、不動産投資家、優れた才能や実績を持つ人などを対象とする「Golden Residency」が設けられている。

不動産所有者の場合、現在の基準はBHD130,000(約34万5,000米ドル)以上。申請者が購入時点において、バーレーン国内で合計BHD130,000以上の持分価値を有する不動産を所有していることが求められる。この要件は、単一の物件でも、複数の物件の合算でも満たすことができる。

この基準額は従来BHD200,000(約53万米ドル)だったが、2025年11月に35%引き下げられ、BHD130,000となった。バーレーン政府は、この変更を不動産投資の促進と、長期居住・ビジネス・投資拠点としての競争力強化の一環と位置付けている。

もう一つの大きな特徴が、居住制度としての柔軟性である。

Golden ResidencyはPermanent Residency(永続的な居住資格)として位置付けられており、その有効性を維持するために、バーレーン国内での最低滞在日数は設けられていない。また、他国の居住資格を保有していても、バーレーンのGolden Residencyの取得資格には影響しない。

対象は不動産所有者だけではない。一定の条件を満たす専門人材や退職者、優れた才能・実績を有する個人などにも取得ルートが設けられている。

さらに、Golden Residency保有者は、配偶者、親、子どもをスポンサーすることができるほか、バーレーンへの出入国の自由や、事業設立などのメリットも設けられている。

つまり、バーレーンの制度の特徴は、

「比較的明確な不動産保有基準」
+ 「永続的な居住資格」
+ 「最低滞在日数なし」
+ 「配偶者・親・子どもへの適用拡大」

という組み合わせにある。

こうした特徴から、バーレーンは、国際的な移動や居住の柔軟性を維持しながら、家族の長期的な生活・事業拠点を確保したい人にとって、検討対象となり得る制度を提供している。

ギリシャ――25万、40万、80万ユーロ。物件によって入口が違う

欧州の投資家向け居住制度としてよく知られているのがギリシャのゴールデンビザである。

しかし現在は、

「ギリシャなら25万ユーロの不動産を買えばゴールデンビザが取れる」

と単純に理解するのは正確ではない。

アッティカ、テッサロニキ、ミコノス、サントリーニなどの地域や、人口3,100人を超える島では、対象となる不動産投資の基準は原則80万ユーロ。その他の地域では原則40万ユーロとなっている。

一方、商業用などから住宅へ用途変更する一定の物件については、25万ユーロからの特例ルートがある。この場合、単一物件であることが必要だが、一般ルートの120㎡以上という面積要件は適用されない。

歴史的建造物など、別の25万ユーロルートも存在する。

したがって現在のギリシャは、

25万ユーロ
40
万ユーロ
80
万ユーロ

という複数の入口が存在すると理解した方が分かりやすい。

なお、投資家向けResidence Permitは、原則として就労する権利そのものを付与するものではない点にも注意が必要である。

最低投資額だけではなく、どの地域で、どの種類の不動産を取得するのかまで確認する必要がある。


キプロス――30万ユーロからの投資で、居住権は原則無期限

同じ地中海でも、キプロスは制度の性格が少し異なる。

第三国国民向けの投資家用Immigration Permitでは、原則として30万ユーロ以上の投資が求められる。

対象は住宅だけではない。

新築の住宅・アパート、オフィスや店舗などの不動産、キプロス企業への出資、一定のキプロス投資ファンドなど、複数の選択肢が用意されている。住宅・アパートの場合は原則として開発会社からのFirst Saleが対象となる。

さらに申請者には原則として年間5万ユーロ以上の安定した所得が求められる。配偶者については1万5,000ユーロ、扶養する未成年の子ども1人につき1万ユーロが追加される。

居住権そのものは原則として無期限で、Residence Permit Cardは10年ごとに更新する仕組みとなっている。

ただし重要な維持条件がある。

承認時に国外にいる場合、原則として承認から1年以内にキプロスで居住を開始する必要がある。また、その後2年間キプロスを離れた状態が続くと、Permanent Residenceの権利を失うとされている。

したがって、「最低滞在要件なし」を明示するバーレーンとは制度設計が異なる。


マルタ――不動産だけでは完結しないPermanent Residence

マルタには、非EU・EEA・スイス国民などを対象とするMalta Permanent Residence Programme(MPRP)がある。

名前の通り、Permanent Residenceを目的とする制度である。

現在の適格不動産の基準は、

37万5,000ユーロ以上で購入

または

年間1万4,000ユーロ以上で賃借

となっている。

しかし、単に不動産を購入・賃借すればPermanent Residenceを取得できるわけではない。

現在は、6万ユーロのAdministrative Feeと3万7,000ユーロのGovernment Contributionが必要で、さらに登録NGOへの2,000ユーロの寄付も求められる。

資産要件もあり、例えば50万ユーロ以上のCapital Assets(うち15万ユーロ以上をFinancial Assets)、または65万ユーロ以上(うち7万5,000ユーロ以上をFinancial Assets)という選択肢が示されている。

つまりマルタは、

不動産
+政府へのContribution
+Administrative Fee
+資産要件
+Due Diligence

というパッケージとして理解する必要がある。

「37万5,000ユーロの家を買えば永住権」という制度ではない。


ポルトガル――「不動産ゴールデンビザ」の時代から制度が変化

ゴールデンビザを語るうえで象徴的なのがポルトガルである。

かつては不動産投資型ゴールデンビザの代表的な国として知られていたが、2023年の法改正後、現在のARI(Residence Permit for Investment Activity)の対象となる投資は大きく変化している。

現在も対象となる代表的な投資には、

50万ユーロ以上の一定の投資ファンドへの投資

50万ユーロ以上の科学研究等への投資

25万ユーロ以上の芸術・文化遺産等への投資

一定の雇用創出

などがある。

現在の制度では、不動産購入は新規ARIの代表的な対象投資から外れている。

そのため、

「ポルトガルで家を買えばゴールデンビザ」

という過去のイメージで現在の制度を判断するのは適切ではない。

また、ARIには滞在要件があり、AIMAは現在、最初の1年間に7日、その後の各2年間に14日の最低滞在を求めている。

これは、投資家向け居住制度が固定的なものではなく、住宅政策や政治・経済環境によって変化することを示す好例でもある。


5カ国を比較すると何が違うのか

国代表的な投資・資産要件居住資格の特徴滞在・維持面の特徴
バーレーン不動産 BHD130,000(約US$345,000)以上Golden Residency(Permanent Residency)最低滞在日数なし
ギリシャ不動産 €250,000 / €400,000 / €800,000等投資家向けResidence Permit物件・地域で条件が大きく異なる
キプロス€300,000以上+所得要件居住権は原則無期限2年間の継続不在等で失効
マルタ€375,000購入または€14,000/年賃貸+Contribution等Permanent Residence不動産以外にも複数要件
ポルトガル€500,000ファンド、€250,000文化投資等ARI7日/初年度、以後14日/2年間

※代表的なルートのみを単純化して記載。各制度には追加要件、家族要件、投資維持要件、手数料、審査などがある。


「最も安いゴールデンビザ」を探すことが目的ではない

こうして比較すると、つい「どの国が一番安いのか」に目が向きがちだ。

しかし、ファミリーオフィスの観点から見ると、本当に重要なのは最低投資額だけではない。

たとえば、家族にとっての「第2の居住地」を考える際には、

どこに住みたいのか。
どこで事業をしたいのか。
資産をどこで管理するのか。
子どもをどこで教育するのか。
将来どの国で家族が暮らす可能性があるのか。
税務上の居住地をどこに置くのか。

といった問題を一体として考える必要がある。

特に重要なのが、ResidenceとTax Residenceは同じではないという点だ。

投資家向けのResidence PermitやGolden Residencyを取得したからといって、それだけで自動的にその国の税務上の居住者になるとは限らない。

逆に、実際の滞在日数、恒久的住居、家族や事業との関係などによっては、税務上の居住地の判定に影響する可能性がある。

日本の居住者が海外の居住資格を取得したからといって、それだけで日本の所得税、相続税、贈与税などの問題から離れられるわけでもない。

だからこそ、居住制度だけを切り離して判断するのではなく、法務・税務・資産管理・事業・教育を横断して考えることが重要になる。


バーレーンが示す「ゴールデンビザの次」の競争

今回5カ国を比較すると、もう一つ興味深い変化が見えてくる。

各国が競っているのは、単なる居住資格の提供だけではなくなっている。

バーレーン政府は、Golden Residencyの不動産投資基準を2025年に引き下げた際、この制度を長期居住・ビジネス・投資の地域拠点としての国家戦略の一部と位置付けている。

つまり、居住資格そのものだけではなく、

Residence × Investment × Business × Financial Ecosystem

を組み合わせて、世界の投資家や専門人材を呼び込もうとしているのである。

これは、シンガポールや香港などアジアの金融ハブを見てきた日本の企業オーナーや富裕層にとっても興味深い動きだ。

「日本か海外か」という二者択一で考える必要もない。

日本を生活の中心にしながら海外資産を持つ。
子どもだけ海外で教育する。
海外に事業拠点を持つ。
第2の居住資格を確保する。
資産管理の一部を海外へ分散する。

家族によって、必要な組み合わせは異なる。

重要なのは、海外へ出ることそのものではない。

世界にどのような選択肢があるのかを知ったうえで、自分たちの家族に必要なものを選ぶこと。

投資家向け居住制度も、その選択肢の一つとして捉えるべきだろう。


本稿について

本稿は2026年9月時点の各国政府・公的機関等の公表情報をもとに、投資家向け居住制度の概要を比較したものです。制度は今後変更される可能性があります。また、本稿は特定国への移住、投資、不動産取得等を推奨するものではありません。

個別の申請条件、税務、法務、相続・贈与、投資判断等については、各国政府機関および適切な専門家にご確認ください。

主な参照先:
Bahrain Golden Residency
Greece National Registry of Administrative Public Services
Cyprus Migration Department
Residency Malta Agency
Portugal AIMA

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