――富裕層誘致を「海外資本の成長投資」につなげる新たな政策モデル
本稿のポイント
- 2025年4月の制度改革後、申請は急増し、2026年9月2日までに904件、467件が承認された。
- 最低NZ$5 millionのGrowthカテゴリーでは、直接投資やマネージドファンドなど、ニュージーランドの成長につながる投資を重視している。
- 2026年にも制度改正が続いており、資金源の透明性、投資先への監督、Build to Rentなど、移民政策と資本政策の一体化が進んでいる。
富裕層誘致は「人を呼ぶ政策」から「資本を呼ぶ政策」へ
世界各国で、富裕層やファミリーオフィスを対象とした誘致政策が進んでいる。
シンガポールでは、ファミリーオフィスや資産運用機能の集積を通じて、海外資本だけでなく、金融人材、専門サービス、投資機会を呼び込むエコシステムが形成されてきた。
一方、異なるアプローチで富裕層と海外資本の誘致を進めている国がニュージーランドである。
その中心にあるのが、投資家向け在留制度「Active Investor Plus Visa(AIP)」である。
ニュージーランド政府は2025年4月、この制度を大幅に見直した。従来制度を簡素化し、「Growth」と「Balanced」という2つのカテゴリーに再編するとともに、Growthの最低投資額をNZ$5 million、BalancedをNZ$10 millionとした。英語要件も撤廃された。
注目すべきは、単なる「投資による居住権取得制度」として設計されているわけではない点である。
Immigration New Zealandは、AIPについて、投資家が企業によるグローバルな知識・ネットワーク、資本、市場へのアクセスを支援し、企業の生産性向上や雇用拡大につなげることを目的とする制度であると説明している。
つまり、富裕層の移住と海外資本の流入を、国内経済への投資につなげようとする政策なのである。
NZ$5 millionの「Growth」とNZ$10 millionの「Balanced」
現在のAIPには、大きく2つの選択肢がある。
Growthカテゴリーは最低NZ$5 millionを36カ月間投資する制度である。対象となり得るのは直接投資、承認されたマネージドファンド、一定範囲のフィランソロピーである。フィランソロピーは総投資額の20%が上限となる。
一方、Balancedカテゴリーは最低NZ$10 millionを60カ月間投資する。直接投資やマネージドファンドに加え、上場株式、債券、不動産開発など、Growthより幅広い資産が対象となり得る。
滞在要件にも差がある。
Growthでは36カ月の投資期間中、ニュージーランドで最低21日を過ごす必要がある。Balancedでは原則105日であるが、Growthカテゴリーに該当する投資を追加することで必要日数を減らすことができる。
さらに、配偶者と24歳以下の扶養する子どもを申請に含めることが可能である。条件を満たせばGrowthでは3年後、Balancedでは5年後にPermanent Resident Visaを申請できる。
したがってAIPは、投資だけではなく、居住、家族、教育、長期的な資産管理を含めて検討され得る制度である。
制度改革後、申請は急増
2025年の改革後、制度の利用は大きく増加した。
目次
- 富裕層誘致は「人を呼ぶ政策」から「資本を呼ぶ政策」へ
- NZ$5 millionの「Growth」とNZ$10 millionの「Balanced」
- 重要なのは「何人来たか」ではなく「資本がどこへ向かったか」
- 2026年8月には「資金源の透明性」を明確化
- Build to RentもGrowthカテゴリーへ
- シンガポールとは異なる「富裕層誘致」のモデル
- 「投資すれば永住権」ではない
- ファミリーオフィス実務から見るAIPの意味
