本稿の要旨
ファミリーオフィスの実務では、「何に投資するか」と同じくらい、「どのような法的・金融上の器を通じて資産を保有・運用するか」が重要である。
世界の主要な金融・資産管理拠点を見ると、スイスのActively Managed Certificate(AMC)、シンガポールやモーリシャスのVariable Capital Company(VCC)、ケイマン諸島で利用される各種ファンドビークルやAlternative Investment Vehicle(AIV)、さらにADGM(アブダビ)、DIFC(ドバイ)、パナマなどのFoundationといった仕組みが存在する。
しかし、これらは同じ目的を持つ制度の国別バリエーションではない。
本稿では、これらを大きく、
① 投資戦略を商品化する「Investment Product」② 投資戦略・資産・リスクを分離して管理する「Investment Platform / Vehicle」③ 所有・承継・ガバナンスを設計する「Ownership / Governance」
という3つの機能に整理する。
そのうえで、富裕層やファミリーオフィスにとって重要となる「Ownership Architecture(所有構造の設計)」という視点から、それぞれの違いを考える。
1.「何に投資するか」の前に、「どう持つか」がある
資産運用について語るとき、通常は株式、債券、不動産、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタルといった「投資対象」に目が向く。
しかし、資産規模が大きくなり、投資先が複数国に広がり、さらに次世代への承継まで考えるようになると、別の問題が生じる。
その資産を、誰が、どのような法的・金融上の器を通じて保有するのか。
個人が直接保有する方法もあれば、会社を設立して法人名義で保有する方法もある。
しかし、グローバルなファンドやファミリーオフィスの実務では、それだけではない。
投資戦略そのものを金融商品にすることもできる。複数の投資戦略を一つのファンド・プラットフォームに収容することもできる。特定の投資や案件だけを別のビークルに切り離すこともできる。
さらに、個人から資産を切り離し、Foundationなどに保有させ、一定のルールの下で世代を超えて管理する仕組みも存在する。
つまり、資産管理には「何を持つか」だけでなく、「何に入れて持つか」という設計が存在するのである。
本稿では、これらを次の3カテゴリーに分けて考えたい。
カテゴリー代表例主な役割① Investment ProductSwiss AMC投資戦略の商品化② Investment Platform / VehicleSingapore VCC、Mauritius VCC、Cayman fund vehicles・AIV/SPV投資戦略・資産・リスクの分離と管理③ Ownership / GovernanceADGM Foundation、DIFC Foundation、Panama Private Interest Foundation資産保有・承継・家族ガバナンス
重要なのは、これらを「同じ制度の国違い」と理解しないことである。
目次
- 第Ⅰ部 投資戦略を「商品」にする
- 第Ⅱ部 投資戦略・資産・リスクを「分けて管理する」
- 第Ⅲ部 資産を「誰のものとして、どう承継するか」
