ファミリーオフィス機能の「内製」と「外部化」

― グローバル・ウェルスマネジメント・プラットフォームの比較から考える外部機能の選定

本稿の要旨

ファミリーオフィスの構築では、すべての機能を内部に抱えることが最適とは限らない。投資運用、カストディ、プライベート市場へのアクセス、統合レポーティング等については、外部の金融機関や専門機関を活用する選択肢がある。

一方、外部化する機能が増えるほど、ファミリー側には、投資方針、リスク許容度、承継方針等を決定し、複数の外部提供者を選定・監督するガバナンス機能が求められる。

本稿では、異なるビジネスモデルを持つグローバル金融機関の公表情報をケースとして、「どの金融機関が優れているか」ではなく、「ファミリー自身が何を保持し、何を外部化するのか」という観点から、モダン・ファミリーオフィスの設計を考察する。

ファミリーオフィスは、すべてを内製する必要があるのか

シングル・ファミリーオフィス(SFO)の構築というと、CIO(最高投資責任者)、ポートフォリオマネジャー、投資アナリスト、管理・コンプライアンス等の専門人材を採用し、必要な機能を内部に構築する姿を想像しやすい。

しかし、実際のファミリーオフィス設計では、すべての機能を内製する必要があるとは限らない。

特に投資分野では、プライベートバンク(PB)、EAM(External Asset Manager)、アセットマネジャー(AM)、カストディアン、プライベート市場の専門運用機関等を組み合わせることで、内部組織を過度に大きくすることなく、専門性の高い機能を利用することが可能である。

そこで最初に整理すべきなのは、

① ファミリー自身が保持すべき機能
② 外部化できる機能
③ 外部化してもファミリー側が監督すべき機能

の区分である。

例えば、投資目的、リスク許容度、長期的な資産配分方針、承継方針等は、本来ファミリー側の意思決定に属する。

一方、個別商品の選定、運用執行、投資リサーチ、カストディ、統合レポーティング等については、外部の専門機関を活用する余地がある。

重要なのは、「外部化」と「意思決定の放棄」を混同しないことである。

【図1】ファミリーオフィスの機能分解

                         ファミリー

                    目的・価値観・承継方針

                              │

                              ▼

                       ガバナンス機能

                     最終意思決定・監督

                              │

             ┌────────────────┼────────────────┐

             ▼                ▼                ▼

      ファミリー側に残す     外部化できる       専門家と連携

      ──────────────     ──────────────     ──────────

      投資目的              資産運用           税務

      リスク許容度          投資リサーチ       法務

      資産配分方針          取引執行           信託・相続

      承継方針              カストディ         会社管理

      外部提供者の          統合レポート

      選定・監督            Private Markets

図1:FOPAJ作成

「PBかEAMか」だけではなくなっている

従来、富裕層の資産管理では、特定のPBに資産を預け、その銀行に所属する担当者を中心に資産管理を行うモデルが一般的であった。

これに対し、前稿で取り上げたEAMでは、資産を銀行等のカストディアンに置きながら、運用・助言機能を銀行の外部に置くことができる。

しかし現在のファミリーオフィス実務では、選択肢を単純な「PBかEAMか」という二分法だけで捉えることは難しくなっている。

その背景には、グローバルな金融グループが従来の業態の境界を越えてサービスを提供するようになっていることがある。

例えば、運用会社を母体としながら、ウェルスマネジメントやマルチカストディ機能を提供するモデルがある。

オーナーファミリーを持つPBが、長期運用や金融仲介業者向けサービスまで提供するモデルも存在する。

さらに、PB、アセットマネジメント、オルタナティブ投資、カストディ・アセットサービス等の複数機能をグループ内に持つケースもある。

したがって、ファミリーオフィス実務家に求められるのは、金融機関を従来の業態名だけで分類することではなく、

その外部提供者から、どの機能を切り出して利用できるのか

を見ることである。

外部化によって新たに生じる課題

このモデルには利点がある一方、新しい課題も生じる。

第一は、全体を誰が把握するのかという問題である。

複数のPB、EAM、アセットマネジャー等を利用すれば、特定の金融機関への依存を低下させられる可能性がある。一方、同一銘柄への重複投資、通貨別エクスポージャー、流動性、プライベート市場への配分、借入等をファミリー全体で把握しにくくなる場合がある。

第二は、利益相反である。

「独立系」「オープン・アーキテクチャ」といった名称だけで中立性を判断することはできない。自社商品、第三者商品、取引手数料、運用報酬等を含め、報酬構造や商品選定プロセスを確認する必要がある。

第三は、総コストである。

外部運用機関の管理報酬だけでなく、カストディ、取引、為替、ファンド、プライベート市場、レポーティング、ファンド・ストラクチャー等を含めたTotal Cost of Ownership(TCO:総保有コスト)で評価する必要がある。

したがって、外部化が進むほどファミリーオフィスの役割が小さくなるとは限らない。

むしろ、

「自ら運用する組織」から「複数の外部提供者を選定・統合・監督する組織」へ

役割が変化する可能性がある。

外部プラットフォームを比較するための視点

外部提供者を評価する際には、少なくとも次の視点が必要となる。

① 所有構造とガバナンス② 資産運用機能③ カストディの選択肢④ オープン・アーキテクチャの実態⑤ プライベート市場への対応⑥ 統合レポーティング⑦ 外部専門家との接続⑧ 報酬体系と利益相反⑨ 総コスト

そして、より重要なのは、

「その金融機関が何を提供できるか」ではなく、「ファミリーが何を必要としているか」から選定を始める

ことである。

では、実際のグローバル金融機関では、こうした機能をどのように組み合わせているのだろうか。

以下では、ビジネスモデルの異なる3社の公表情報をケースとして比較する。

目次

  1. ファミリーオフィスは、すべてを内製する必要があるのか
  2. 「PBかEAMか」だけではなくなっている
  3. 外部化によって新たに生じる課題
  4. 外部プラットフォームを比較するための視点
  5. 異なる3つのモデルから考える
  6. Schroders――運用会社とEAMの機能が接近したモデル
  7. LGT――オーナーファミリーとの「利害の整合」を特徴とするモデル
  8. Pictet――パートナーシップ型の複合金融プラットフォーム
  9. 3社を「強み」ではなく「構造」で比較する
  10. VCCも「目的」ではなく外部化設計の一部
  11. 外部プラットフォーム選定の7つの確認点
  12. 結論――「どこに任せるか」の前に「何を任せるか」

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